純和式の畳が浮世絵の額縁になりました
札幌イルミネーション夜景(さっぽろイルミネーションやけい)
舞台は寒さ厳しい札幌の「すすきの」(右写真)。 澄んだ冷気の中、鮮やかに灯る街角のイルミネーション。 ショーウインドウから漏れる明かりやネオン看板の光が、 イルミネーションの並木に華を添えています。 そんなロマンチックな雪夜を、伝統の木版画でリアルに 表現しました。 |
|
制作風景(彫り作業)
このファンタジーな世界を版木に彫ったのは女性彫師でした。 (永井沙絵子さん、旧姓:馬場さん) 彫師の修行5年目において、師匠の関岡扇令さんの監修のもと、 修行期間終了の為の卒業課題として取り組みました。 版木は山桜の木を使います。非常に細かい彫りを行う為には、 版木は固い必要がある反面、しなやかさも必要で、その 両特性を持つ木材として、山桜の木が適しているからです。 | |
原図となる紙を上下反転させて版木に貼り付け、薄皮1枚になる まで剥ぎ取って、それを元に掘り進めます。 先が鋭利な彫刻刀で、まず凸となる輪郭線すべてに切り目を入れます。 山桜の木は固い為、ペンを持つような握り方では深く刺さらない 為、写真のような握り方で力を加えて細部まで正確に彫り進めます。 非常に集中力と根気が必要な作業です。 | |
凹となる部分はすべて彫り除きます。 面積の広い部分は、写真のようにノミと木槌を使って、均一な 深さで大胆に彫り除きます。 ただし、切り目を付けた輪郭部の1mm手前で彫るのは留めます。 | |
輪郭部は非常に繊細である為に、1mm幅で残った部分を、 専用の彫刻刀を用いてすべて取り除きます。 この作業は、さらう動作から「さらい」と呼ばれています。 この作業まで完了すれば、輪郭線用の版木が完成となります。 この版木によって色板用版木の原画も作ります。また、非常に繊細 な部分まで彫られる為、版木の中でも最も重要な版木と言えます。 |
彫られた版木
広い部分の凹部の取り除きが まだ終わっていない段階。 細部はさらいまで完了済です。 白くなっているのは、原図の 紙を張り付けてある為。 | 色板用原図作りの為の摺りを 行った直後の状態。 ショウウインドウの輪郭線が 細かく彫られていることに ご注目。 | やや斜めからの写真。細部に 渡り丁寧に彫られています。 摺りへの配慮から凸部は、 やや台形型に彫られています。 (絵具溜まり防止の為) |
摺られた作品の拡大写真
上記の版木は作品における黒部に該当します。 ただ、作品においてショウウインドウの黒い輪郭線は存在していません。 それは、色板の原画作りとして使用した後、作品制作時の摺りの段階では、 その輪郭線が出ないようにその凸部をすべて削り取ったからです。 ファンタジーな絵柄としては輪郭線を無くしたいということもあり、そのような対応をしてあります。 作品には現れませんが、ショウウインドウの輪郭線をすべて繊細に彫る、という彫師さんの「影の努力」があってはじめて、輪郭線のないショウウインドウができあがったのです。 |
絵師:岡本辰春 (おかもと たつはる)
1964年 京都生まれ。京都市在住。 |
||
彫師:関岡扇令 (せきおか せんれい) |
||
1957年 東京生まれ。東京都荒川区在中。本名:関岡裕介。 代々摺師の家系に生まれたが、二代目扇令の父親の勧めにより、19才より彫師の道 に入り、大倉半兵衛に弟子入りし、7年の修行を積んだ。 38年ものキャリアを持つその高い技巧は、単に原画に忠実に彫るだけではなく、 原画の甘い線を補完した彫りもできる、創造性の高い技巧を有している。 この作品においては、海の波の状況が、師の技巧により美しく表現されている。 浮世絵といった古典的なデザインだけでなく、新版画や近代版画といった新しい デザインの彫り作業にも積極的にチャレンジしている。 また、後世の彫師育成の為、積極的に弟子を受け入れており、2013年10月、 三代目扇令として襲名された。 |
||
彫師:永井沙絵子(ながい さえこ) |
||
1983年生まれ 旧姓:馬場沙絵子 高校卒業後、京都伝統工芸大学校(現名称) にて、2年間 仏像彫刻を学び、 卒業後、2010年4月より5年間 関岡 扇令 師匠のもと彫師としての修行を行った。 修行期間には、浮世木版「札幌イルミネーション夜景」や 川瀬巴水「駒形河岸」の復刻版などの彫りを扇令師匠 監修のもと着手した。 |
||
摺師:岡田 拓也 (おかだ たくや) |
||
1983年生まれ。 茨城県常総市在中。 高校卒業後、京都伝統工芸大学校(現名称) にて、仏像彫刻を学び、 卒業後、渡邊木版にて摺師の修行をし、2012年に独立。 約8年のキャリアを持ち、摺師として高い技巧を有してきている。 渡邊木版は川瀬巴水に代表される新版画の版元であり、新版画に おいて用いられる多くのぼかし、かすれの技法を習得している。 伝統技法に加え、新しい技法にも積極的に取り組む新世代の 摺師である。 2017年には、NHKドラマ『眩(くらら)~北斎の娘~』にて、 北斎の神奈川沖浪裏の初摺を行う摺師役として実演の出演をした。 |